免疫チェックポイント阻害薬の一つであるヤーボイは、悪性黒色腫と腎細胞がん(双方根治切除が不能のもの)に用いられる治療薬です。免疫機能のブレーキを解除することにより、人の体が本来持っている免疫機能を活性化させ、がん細胞の増殖を抑えます。ヤーボイは50以上の国で切除不能または転移性悪性黒色腫の治療薬として承認されていますが、現在でも複数のがんにおいて幅広い開発プログラムが進められています。この記事では、ヤーボイについて特徴や副作用などについて解説していきます。
一般名称 | イピリムマブ |
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形状 | 注射剤 |
分類 | 免疫チェックポイント阻害薬 |
商品名・薬価 |
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適応する症状 |
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ヤーボイは、これまで使われてきた抗がん剤とは異なり、がん細胞を直接攻撃する薬ではありません。ヤーボイを投与することによってT細胞と結びつき、がん細胞の増殖を抑えることができるところが大きな特徴であると言えます。
ヤーボイは「免疫チェックポイント阻害薬」と呼ばれる種類の薬です。
人の体が持っている免疫機能に関わっているT細胞は、がん細胞から体を守る司令塔として働いています。通常は、がん細胞を攻撃し、がん細胞の増殖を抑えますが、T細胞の表面にあるアンテナにがん細胞や抗原提示細胞が結びついてしまうと、免疫の働きにブレーキがかかり、がん細胞を攻撃できなくなってしまいます(免疫チェックポイント機構)。
ここでヤーボイを投与すると、「CTLA-4」と呼ばれるT細胞のアンテナと結びつきます。するとT細胞にかかっている免疫のブレーキを外し、再びがん細胞を攻撃することができるようになります。
「CTLA-4」は、もともとフランスの研究者らが見つけ、さらに米テキサス大学のジェームズ・アリソン教授により免疫細胞が過剰に働くことを抑える役割があることが発見された免疫チェックポイント分子です。ヤーボイは、このアリソン教授の研究をもとに免疫チェックポイント阻害剤として開発されました。
現在は米ブリストル・マイヤーズスクイブにより製造・販売され、世界50以上の国で切除不能または転移性悪性黒色腫の治療薬として承認されています。
ヤーボイは、静脈から90分かけて点滴注射により投与されますが、投与する量については患者の体重によって決定されます。また、悪性黒色腫の治療に使用するのか、腎細胞がんに対する治療に使用するのかにより投与の方法が異なります。
●根治切除不能な悪性黒色腫の場合
成人にはイピリムマブ1回3mg/kg(体重)を3週間間隔で4回点滴により投与します。また、ニボルマブ(オプジーボ)と併用される場合もありますが、その場合もヤーボイの投与方法やスケジュールは同様に進められます。
●根治切除不能または転移性の腎細胞がん
ニボルマブ(オプジーボ)と併用した治療が行われますが、通常はイピリムマブ1回1mg/kg(体重)を3週間間隔で4回、点滴により投与します。
ヤーボイを使用する場合、オプジーボと併用することにより治療を進めるケースもあります。
ヤーボイや「CTLA-4」、オプジーボは「PD-1」にそれぞれ結びつくことによって免疫のブレーキを外すことで、がん細胞の増殖を抑えることになります。これら2種類の免疫チェックポイント阻害薬を組み合わせ、がんに対する攻撃力をさらに高めて効果的な治療を行うことを目指しています。
この2種類の免疫チェックポイント阻害薬(ヤーボイとオプジーボ)を組み合わせた併用療法については、悪性黒色腫に対するがん免疫療法では2018年5月から、また腎細胞がんに対するがん免疫療法の場合は2018年8月から保険診療の対象となっています。
また、ヤーボイを使用して治療を行っている場合、何らかの病気予防のために生ワクチンや弱毒性ワクチン、不活性化ワクチンの接種を受ける場合には注意が必要です。これは、ヤーボイの投与により免疫機能が高まっていることから、ワクチン接種により過度の免疫反応による症状があらわれるおそれがあるためです。
ヤーボイを投与することにより、がん細胞を攻撃するT細胞の働きを維持することができますが、T細胞が過剰に働くことによって炎症などの副作用が見られることがあります。そのため、治療において気になる症状があらわれた場合には早急に医師などに相談し、適切に対処する必要がありますので、副作用が起こる可能性があるという点についてはあらかじめ知っておく必要があると言えるでしょう。 また副作用に関しては、ヤーボイを投与している間だけではなく、投与が終了してから数ヶ月後に重篤な副作用が起こったというケースも報告されています。そのため投与中だけではなく投与が終了した後にもよく状態を観察し、気になる症状があった場合には医師や看護師、薬剤師などに速やかに相談して、必要に応じて対処する必要があります。
下記に、ヤーボイの投与により起こる可能性がある重大な副作用についてまとめています。副作用の発生頻度に関しては、ヤーボイを単独投与した場合と、ヤーボイとニボルマブ(オプジーボ)を併用して投与した場合について記載しました。
大腸炎、消化管穿孔 | 大腸炎(7%、7.1%)、消化管穿孔(1%、0.2%)があらわれることがあり、死亡に至った例も報告されています。また、消化管穿孔があらわれた後に敗血症があらわれた例も報告されています。大腸炎の初期症状としては、下痢や排便回数の増加、血便、腹痛などがあり、発熱を伴う場合もあります。 |
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重度の下痢 | 重度の下痢(4%、6.0%)があらわれることがあります。 |
肝不全、肝機能障害 | 肝不全(1%未満、頻度不明)、ALT(GPT)の上昇(3%、14.6%)、AST(GOT)の上昇(3%、13.5%)などを伴う肝機能障害があらわれることがあり、中には死亡に至った例も報告されています。黄疸が見られたり、いつもより疲れやすいといった症状がよくあらわれます。 |
重度の皮膚障害 | 中毒性表皮壊死融解症(Toxic Epidermal Necrolysis:TEN)(1%未満、頻度不明)、薬剤性過敏症症候群(いずれも頻度不明)といった重度の皮膚障害があらわれることがあります。ヤーボイ投与中にかゆみや発疹、赤みなどが見られる場合がありますが、熱を伴う全身の発疹や急に症状が悪くなった場合には注意が必要です。 |
下垂体炎、下垂体機能低下症、甲状腺機能低下症、副腎機能不全 | 下垂体炎(1%、5.5%)、下垂体機能低下症(2%、0.8%)、甲状腺機能低下症(1%、16.1%)および副腎機能不全(1%、4.8%)があらわれることがあります。この場合は、疲労や頭痛、視覚や行動の変化などの症状がみられることがあります。 |
末梢神経障害 | ギラン・バレー症候群(1%未満、0.1%)などの末梢神経障害があらわれることがあり、死亡に至った例も報告されています。筋力の減退や手足のしびれ、脱力といった症状が見られます。 |
腎障害 | 腎不全(1%、1.8%)などの腎障害があらわれることがあり、中には死亡に至った例も報告されています。腎障害が起こった場合には、むくみや色の濃い尿が出たりするなどの症状があらわれます。 |
間質性肺疾患 | 急性呼吸窮迫症候群(1%未満、頻度不明)、肺臓炎(1%未満、6.1%)、間質性肺疾患(頻度不明、0.7%)などがあらわれることがあり、死亡に至った例も報告されています。間質性肺疾患の初期には、息切れがしたり、息苦しいなどの症状があらわれる場合があります。 |
筋炎 | 筋肉の炎症が起こることにより、力が入りにくい・疲れやすい・痛んだりするといった症状が起こる筋炎(頻度不明、0.6%)があらわれることがあります。 |
インフュージョンリアクション | インフュージョンリアクション(1%、2.6%)があらわれることがあります(インフュージョンリアクション:モノクローナル抗体製剤と呼ばれる注射薬を点滴した場合に起こることがある体の反応のこと。過敏症やアレルギーのような症状があらわれることがあります)。 |
上記に挙げた副作用のほか、貧血やリンパ球の減少(疲れやすくなる、感染症にかかりやすくなるなど)、食欲減退、目の症状(霧がかかったような視野、目が痛んだりする、ブドウ膜炎など)、関節が痛む・腫れるといった症状が副作用としてあらわれる場合があります。特に目の症状であるブドウ膜炎ついては、症状が進行した場合に失明するおそれもあるため、適切な処置が必要となります。
ヤーボイは全ての人に投与できるわけではなく、投与禁忌とされている人や慎重に投与を検討すべき人など、使用においてはさまざまな注意点があります。ここでは、投与の際に注意すべき点についてご紹介します。また、この薬を使用している場合に他の医療機関などを受診することがあれば、医師や薬剤師に薬を使用している旨を伝える必要があります。
ヤーボイ投与にあたっては、「本剤の成分に対し重度の過敏症の既往歴のある患者」への投与は禁忌とされています。このことから、ヤーボイに含まれている成分に対し、これまでにアレルギー反応(気管支けいれんや全身性の皮膚障害、低血圧など)を起こした経験がある人は、投与によりさらに重篤なアレルギー反応が出る場合があるため、この薬を使用した治療が行えません。
下記に当てはまる場合には、ヤーボイの投与を慎重に検討してから治療を行い、投与中にも異常が起こっていないかどうかを入念に確認する必要があります。そのため、場合によってはヤーボイを使用した治療が行えないこともあります。
●重度の肝機能障害のある患者
投与開始時に肝機能に異常が見られる患者に投与した場合、その安全性は確認されていません。そのため、肝機能障害を持つ患者への投与については、慎重に検討する必要があります。
●自己免疫疾患の合併または慢性的もしくは再発性の自己免疫疾患の既往歴のある患者
自己免疫疾患(免疫機能が正常に機能せず、自身の組織を攻撃してしまう病気。関節リウマチや甲状腺機能異常症、1型糖尿病などが含まれます)の患者で、免疫の活動性が高い患者の場合は、治療を慎重に検討する必要があります。これは、投与により自己免疫疾患が悪化する恐れがあるためです。
高齢者は一般的に生理機能が低下しているケースが多く見られます。このことから、ヤーボイを投与する際には患者の状態を逐一確認しながら慎重に投与する必要があります。
妊娠中にヤーボイを投与すると、胎児に何らかの影響を与えてしまうことがあります。そのため、妊娠中の女性には原則としてヤーボイの投与ができませんが、治療による利益が危険を上回る場合に限り、投与を行う場合があります。そのため、ヤーボイ投与中は避妊を行う必要がありますが、万が一妊娠した場合にはすぐに医師に相談してください。
また、授乳中の女性への投与もできませんので、ヤーボイを使った治療を行う場合には、授乳を中止することになります。
小児などに対するヤーボイ投与の安全性や有効性は確立されていません。
3回目のヤーボイを8月22日に終えた夫でしたが26日頃からひどい頭痛に悩まされるようになりました。鎮痛剤を飲んでもあまり効き目なく日に日に痛みは増すばかり。
急遽受診して血液検査したところ低ナトリウム血症、甲状腺機能の低下が見られヤーボイの副作用の一つである内分泌障害らしいことがわかりました。