がんと免疫療法のカンケイ―自分の免疫力を高める意義
がんの「第4の治療法」として認知されつつある免疫細胞治療。さて、免疫細胞治療の素晴らしいところは、一部の血液のがんを除き、ほとんどすべてのがんに効果がある治療法だということです。がんの発症部位、進行度は問いません。
免疫細胞治療は、患者本人の全身状態の良いときに最も効果をあらわすとされています。抗がん剤など、他の治療法との組み合わせもできる免疫細胞治療のメリットを最大限に引き出すためにも、早い時期から取り組めればベストです。さまざまな治療に耐えうる体力がある時期にこそ行って欲しい治療法で、体力がある時期だからこそ抗がん剤などの他の治療法との併用もより効果が期待できるのです。
肺がんに対し、画期的な効果が期待されているのが免疫チェックポイント阻害剤による免疫療法です。がん細胞が肺から全身に転移してしまい、抗がん剤が効かなくなった患者の臨床試験結果で大きな効果が確認されています。2センチ以上あったがん細胞に1年半治療すると、CT画像では確認できないほどに縮小、劇的に回復した事例も。抗がん剤とは違った副作用はあるものの、免疫チェックポイント阻害剤の効果は欧米で承認を受けるほどです。ただ、患者の持つ遺伝子により薬の効果に差があるとされており、安定した効果を出すための研究が進められています。
従来、T細胞を活性化して増殖させる活性化リンパ球療法や、樹状細胞を活性化し増殖させる樹状細胞療法が、乳がんに対して施される主な免疫療法でしたが、近年、NK細胞を増殖させる「NK細胞療法」が広く行われるようになりました。活性化リンパ球療法が進化したもので、自分の血液を採決して活性化させ、再び体内に戻すという治療法です。外科的手術や薬物、放射線療法などの治療で転移してしまった、あるいは進行が早く、食い止めるのが難しい乳がんに対し、他の治療法と並行して実施します。抗がん剤のような強い副作用がなく、身体に負担が少ないのも特徴です。体力を保ちながら継続しやすく、特に転移しやすい乳がんに適した治療法として多くのクリニックで取り入れられています。
大腸がんのなかでも、日本人にできやすいと言われているのがS字結腸がんや直腸がん。粘膜にできた大腸がんは腸壁を侵食します。大腸を包んでいる腹膜にも転移する場合があり、そうなると手術で取り除くことが困難です。また、まわりのリンパ節や肺、肝臓に転移しやすいので、免疫療法のなかでも「NK細胞療法」を用いる事例が多数です。抗がん剤による治療で効果が得られなかった転移巣に対し、NK細胞療法を行うと、腫瘍マーカーの数値が急速に低下したという実例があります。NK細胞療法は転移しやすい大腸がんや、転移や再発を防ぐための長期的治療を見込んだケースに多く用いられます。
がん症状が進行してから見つかることの多いすい臓がんは、抗がん剤治療が行われることがほとんどでした。免疫療法ではアルファ・ベータT細胞療法が効果的。T細胞を増強させて治療に役立てる治療法で、がん化しはじめた細胞を素早く発見し、攻撃する身体をつくります。アルファ・ベータT細胞療法は安全性が高い免疫療法として認知されていますが、単独で取り入れるものではなく、他の免疫療法や抗がん剤と合わせて治療するのがほとんどです。サイトカイン治療や、アポトーシス誘導治療と並行して施すと、改善の兆しがなかったすい臓がんに対し、効果があらわれたという実例があります。
内視鏡治療で取り除ける一般的な胃がんは、他の臓器に比べて治りやすいとも言われていますが、「スキルス胃がん」だった場合は、進行が早く早期発見が難しいです。手術による切除が困難なため、化学療法や放射線療法などを併せた治療方法で、がんの進行を食い止めます。胃がんへの免疫療法で効果的とされているのは樹状細胞療法。樹状細胞が、自分のリンパ球に目印を教える力を使い、がん細胞だけを攻撃するように指令を出します。アメリカでは樹状細胞を利用した治療用ワクチンが承認され、保険適用になるほどの安全な治療法で、日本国内でも注目されている免疫療法です。
肝炎ウイルスを保持していることが原因で発症することが多い肝臓がん。特に肝炎や肝硬変から発症した肝臓がんは、肝臓の機能自体が低下しているため、治療自体が難しく、また再発する可能性が高いです。何度も再発を繰り返した肝臓がんに対し行われるのは、切除手術やラジオ波焼灼治療などの局所療法に免疫療法を併せた治療法です。中でも良好な結果を出しているのがペプチドワクチン治療。局所療法であるラジオ波と併用してペプチドワクチン治療を導入したところ、腫瘍がほぼ消失した症例があります。
血管やリンパ管が周りに多く、転移しやすい食道がん。標準的な外科治療や内視鏡治療を行いながら、抗がん剤治療をおこないます。しかし、抗がん剤を投与すると、はじめは食道がんに対して効果がみられても、一定期間を過ぎると薬剤がきかなくなってしまう「耐性」が起こりがちです。がん細胞に対し、時間が経過しても定量的な効果を得るために、免疫療法を取り入れます。中でも、NK細胞療法や樹状細胞ワクチン療法が有効です。全身に抗がん剤治療を施しても転移、進行してしまった食道がんに、NK細胞療法を併用したところ、腫瘍が消失した事例が報告されています。
皮膚がんは筋肉に転移しやすく死亡率も高いですが、免疫療法が効きやすいことが知られている症例も多いです。NK細胞療法でがん細胞を増殖させないようにし、それに加え、サイトカイン療法や免疫チェック阻害薬を使用します。インターロイキンやインターフェロンというサイトカイン物質が、細胞同士で情報を伝達し、がん細胞に対し免疫細胞を活性化させます。免疫細胞が持つ攻撃性を増加させると同時に、転移を防ぐ目的でも使用されるケースが多数。また近年、がん細胞の免疫抑制力を解除する「免疫チェックポイント阻害薬」の併用も、切除できない皮膚がんに対する画期的な治療法として期待されています。
早期発見のがんで対処できる部位の切除や抗がん剤薬、放射線治療。しかし、がんによっては進行するまで気づかなかったり、進行して発見したときには手術できない状態であったりと、病状は様々です。「広範囲に進行した」「多数転移が発覚した」「通常の治療では対処しきれない」場合に併用して用いられるのが免疫療法。末期段階や、転移進行の早いがん患者に対しては、免疫療法を他の治療と組み合わせて継続すると、余命宣告をされるほどだった人が完治できた実例も。手術できないと判断されてしまった、通常治療だけでは効果がなかった場合にも、QOL(生活の質)を保ちつつケアできる手段として、あきらめずに立ち向かう選択肢として、免疫療法は十分に検討できる実績を持っていると言えます。
ほぼすべての人が受けられる免疫細胞治療。手術や抗がん剤のように外的な力による治療ではなく、患者自身の免疫力を高める免疫細胞治療は、これらの治療に耐えられないと考えられる高齢者にとっても安心してチャレンジできる治療法です。体内から取り出し培養することで、増量・強化した免疫細胞は体中をめぐり、免疫力を高め、がん細胞を攻撃します。転移が多すぎて対処できないがん、身体のどこかに潜み再発を始めるかもしれないがん細胞にも対応できることが免疫細胞のメリットのひとつです。
免疫細胞療法は、HIV陽性の人、臓器や骨髄の移植を受けた経験のある人は受けることができない場合があります。白血病(一部)、悪性リンパ腫(T細胞型悪性リンパ腫)、HTLV-1抗体陽性の場合は、免疫細胞療法の中でも樹状細胞ワクチン療法だけ受けることができます。