がん細胞への攻撃性が高い細胞であるT細胞。その中でもアルファ・ベータT細胞はリンパ球の中の7~8割を占めます。このアルファ・ベータT細胞を活性化し、増やすことでがん治療に役立てようとするのが「アルファ・ベータT細胞療法」です。
「ガンマ・デルタT細胞療法」は、他の細胞から提示される異物情報に頼らず、自身で異物やがんを発見し攻撃を加える細胞であるガンマ・デルタT細胞を用いる免疫細胞療法。がん化し始め、変化した細胞をスピーディに発見し攻撃します。
アルファ・ベータT細胞は、がん細胞の特徴を学習する能力を持っている細胞で、樹状細胞から受け取ったがん細胞の情報をもとに、がん細胞を攻撃します。
このアルファ・ベータT細胞を人工的に増やし、がん治療に用いようとするのがアルファ・ベータT細胞療法。アルファ・ベータT細胞を患者のリンパ球から取り出し、T細胞を活性化する抗CD3抗体と、サイトカインであるIL-2(インターロイキン2)とで培養すると、アルファ・ベータT細胞が活性化・増殖します。数が増え、活性化したアルファ・ベータT細胞を再度患者の体内に投与することで、免疫力をアップします。
特徴
アルファ鎖・ベータ鎖という受容体を持つアルファ・ベータT細胞は、樹状細胞から得た情報に沿って、がん細胞を殺傷しにかかります。このアルファ・ベータT細胞は、特定の目印を持つ細胞に向けて攻撃をはじめるため、特異的といわれています。
培養が容易であるというメリットがあり、化学療法によって血液中のリンパ球の数値が減少していても増殖させることができ、数値を元に戻すことができます。
アルファ・ベータT細胞は、闇雲に異物を攻撃する訳ではなく、明確に敵を見定めて攻撃することから、効率の良い戦いを繰り広げることのできる細胞です。しかしながら司令塔である樹状細胞からの情報がなければ、目の前にがん細胞が現れてもまったく動こうとはしません。せっかくリンパ球の中の7~8割を占める多数派であっても、これは少々残念なところです。
このアルファ・ベータT細胞療法は、手術後の補助的療法として取り入れることにより、がんの再発予防効果があるとされています。
これまでの成果
様々な病院や機関で多くの研究がなされてきたアルファ・ベータT細胞療法は、その安全性も認知されています。
しかし、がん細胞情報を発する側の樹状細胞は、アルファ・ベータT細胞の数より圧倒的に少ないため、「指令がないから動けません」という状況となることが多いのです。ただし、活性化したアルファ・ベータT細胞は樹状細胞からのサインに敏感で、その点では期待が持てます。
これからの展望
免疫療法の「第三世代」とされ、注目されたアルファ・ベータT細胞療法には、「精鋭部隊を作り上げても、敵の情報を自ら得ることができない」という弱点もあります。このことから、がん治療において単独で用いるものではありません。抗がん剤や他の免疫療法との併用によって、有効な治療法となるものです。
ガンマ・デルタT細胞は、リンパ球の中の約2~3%ときわめて少数派です。しかし、ウイルスや細菌などに感染してしまった細胞やがん化した細胞をスピーディに発見し即座に攻撃するという特徴を持っているため注目されるようになりました。
近年大量の培養が可能となったことで、ガンマ・デルタT細胞療法による治療も行われるようになっています。ガンマ・デルタT細胞を患者のリンパ球から取り出し、ゾレドロン酸とサイトカインであるIL-2(インターロイキン-2)で培養することで、ガンマ・デルタT細胞を活性化、増殖させた後に患者の体内へ戻します。
特徴
ガンマ・デルタT細胞は、がん細胞が掲げる目印によらず、みずからが「異物だ」と判断した細胞を攻撃しはじめるという特徴があります。がん細胞のうち約40%は、がん細胞であることをあらわすMHCクラスⅠという物質を出しません。このような細胞をも見分けて排除するのがガンマ・デルタT細胞なのです。他の免疫細胞に比べ、俊敏さと攻撃性に長けた免疫細胞といえるでしょう。
アルファ・ベータT細胞は、戦う相手を「教える」必要がありましたが、ガンマ・デルタT細胞にはその手間が必要ありません。がん細胞を認識する能力に関しては、NK細胞よりも高いといえます。
このガンマ・デルタT細胞療法は、日本人の死因第1位の肺がんや、多発性骨髄腫をはじめとした様々ながんに対して臨床試験が実施され、論文が発表されています。抗体医薬品との組み合わせでも、相乗効果を期待されています。
これまでの成果
免疫細胞療法の中でも、比較的多くの病院や医療機関で臨床試験が実施されているのが、このガンマ・デルタT細胞療法です。がんが縮小したという症例もあり、期待される治療法といえるでしょう。
これもまた、ガンマ・デルタT細胞の持つ「敵を見分ける力」と「強力な殺傷能力」によるものです。
これからの展望
ガンマ・デルタT細胞療法が期待の治療法であっても、まだ症例数は多くはありません。この療法のより効果的な使い方や安全性は、今後の研究が待たれるところです。著名な大学の附属病院や国立病院などでは、先進医療の開発対象として臨床研究を進められており、新しい免疫細胞療法として注目されています。
アルファ・ベータT細胞療法を取り入れた患者の中には、Treg細胞(免疫抑制作用を担う細胞)が減少することがある、という研究結果が発表されました。アルファ・ベータT細胞療法は、いわゆる「活性化自己リンパ球療法」のひとつとして長い間実施されてきましたが、最近の研究結果によって免疫治療の効果向上に大きな役割を果たすであろうと期待されるようになっています。
アルファ・ベータT細胞療法は、単独で治療に用いられるだけではありません。最近大きな注目を浴びている、免疫を抑制する働きを解除する薬剤(免疫チェックポイント阻害剤)と同様の働きをするとされているのです。免疫抑制を担うたんぱく質「PD-1」や「CTLA4」の働きを阻害する抗体医薬(免疫チェックポイント阻害剤)によって、がん細胞への免疫反応を働きやすくする環境を作ることを可能とします。この力は、樹状細胞ワクチン療法など、他の免疫治療法の効果を引き出すためにも不可欠です。