免疫チェックポイント阻害薬:バベンチオの効果と特徴

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今注目を集めている「バベンチオ」とは

メルケル細胞がんに適応する免疫チェックポイント阻害薬

バベンチオ(一般名称:アベルマブ)は、メルクセローノ株式会社とファイザー株式会社が共同開発した抗PD-L1抗体です。日本では患者数が100人にも満たないとされている希少ながん・メルケル細胞がんへの適応で2017年9月に承認を取得しており、世界でも45カ国以上で承認されています。この記事では、免疫チェックポイント阻害薬のひとつとして注目されているバベンチオの特徴や使い方、さらに注意すべき副作用などについて見ていくことにしましょう。

バベンチオの概要

一般名称 アベルマブ(遺伝子組換え)
形状 注射剤
分類 免疫チェックポイント阻害薬
商品名・薬価
  • バベンチオ点滴静注200mg(メルクバイオファーマ):196,325円/瓶
適応する症状(テセントリク点滴静注840mgの場合)
  • 根治切除不能なメルケル細胞がん

バベンチオの特徴

バベンチオは、メルケル細胞がんの患者へ使用される免疫チェックポイント阻害薬です。メルケル細胞がんとは、非常に希少な皮膚悪性腫瘍で、頭頸部や腕など、日光にさらされる機会が多い部位の皮膚に発生します。進行が早く、予後が良くないがんであるとされています。症例数は非常に少ない点も特徴で、欧州での罹患率は100,000人あたり0.1〜0.4人と報告されており、日本での総患者数も100人に満たないとも言われています。

バベンチオは、日本で初めて承認されたメルケル細胞がんの治療薬であり、日本初のPD-L1抗体です。これまではメルケル細胞がんについては承認された治療薬がなく、有効な治療薬の開発が望まれてきた中で、バベンチオの承認は患者やその家族に新たな治療法の選択肢ができたことになります。

バベンチオの効果

人の体には、外から侵入してきた病原菌やウイルス、がん細胞などの異物を攻撃し、排除するための免疫機能があります。ただし、がん細胞は免疫機能であるT細胞の働きを止めるスイッチを持っています。がん細胞が持つ「PD-L1」と呼ばれる部位が、T細胞が持つ「PD-1」と呼ばれる部位と結合することで、T細胞ががん細胞を攻撃することができなくなり、結果として攻撃を受けることがなくなったがん細胞がさらに増殖していきます。
バベンチオは、投与するとがん細胞が持つPD-L1に作用することで、PD-L1とT細胞のPD-1の結合を阻害することができます。このことにより、T細胞が増殖・活性化して本来持つ働きを取り戻し、がん細胞を攻撃することができるようになります。

バベンチオ開発の経緯

メルクセローノ株式会社とファイザー株式会社によって共同開発されている抗PD-L1抗体「バベンチオ」は、日本において2017年9月に「根治切除不能なメルケル細胞癌」の効能・効果で製造販売承認を取得し、同年11月から発売しているものです。

さらに、メルクセローノ株式会社では、2019年1月30日に、「根治切除不能又は転移性の腎細胞がん」における治療薬として、バベンチオの製造販売承認事項一部変更承認申請を行っています。この申請は、「インライタ(チロシンキナーゼ阻害剤)」との併用療法による、未治療の進行腎細胞がんを対象とした、第3相試験結果に基づいているものです。この併用療法が、近い将来進行腎細胞がんの新たな治療選択肢となることが期待されています。

バベンチオの使い方

バベンチオは、2週間に1回、点滴によって1時間以上かけて投与されます。投与する量については、患者の体重に応じて医師によって決まられます。

また、バベンチオを投与する際にインフュージョンリアクションと呼ばれる反応(点滴に伴う副作用)があらわれることがあります。このインフュージョンリアクションの主な症状は、息切れや呼吸困難、発熱、寒気、嘔吐などがあります。

この副作用を軽減するために、抗ヒスタミン剤や解熱鎮痛剤といった薬をバベンチオの投与前に使用しますが、万が一インフュージョンリアクションの症状があらわれた場合には投与速度を遅くする、投与を延期する、またステロイド剤での治療を行う場合があります。また、投与中だけではなく投与後にインフュージョンリアクションの症状があらわれることがあります。

バベンチオと他の薬の併用について

バベンチオとほかの抗悪性腫瘍剤との併用においては、有効性および安全性は確立されていません。

バベンチオの副作用・安全性

バベンチオによる治療を行っている際、何らかの副作用が起こる可能性があります。そのため、気になる症状がある場合には手帳などに日付とともにメモしておき、担当医や看護師に報告できるようにしておくことが大切です。
下記に特に注意すべき副作用に関して記載していますが、これらの症状が現れた場合には、すぐに担当医や看護師への報告を行います。また投与終了後に副作用の症状があらわれることもあります。副作用が見られる場合には、投与の中止など症状に応じた対応が行われます。

可能性のある重篤な副作用

間質性肺疾患 間質性肺疾患(0.9%)があらわれることがあります。中には死亡に至った症例も報告されていることから、息切れや呼吸困難、咳嗽などの初期症状の確認やX線検査の実施など、観察を十分に行う必要があります。
膵炎 膵炎(頻度不明)があらわれることがあります。膵炎の症状が見られた場合には、投与の中止など適切な対応を行う必要があります。
肝不全、肝機能障害、肝炎 肝不全(頻度不明)、AST、ALT、γ-GTP、ビリルビン等の上昇を伴う肝機能障害(8.5%)、肝炎(頻度不明)があらわれることがあります。定期的な肝機能の検査などによる確認を行いながら投与を行います。
大腸炎、重度の下痢 大腸炎(頻度不明)、重度の下痢(頻度不明)が起こることがあるため、下痢が持続する場合や、腹痛、血便などの症状が認められた場合には、投与を休薬または中止します。
甲状腺機能障害 甲状腺機能低下症(3.4%)、甲状腺機能亢進症(1.7%)、甲状腺炎(頻度不明)などの甲状腺機能障害があらわれることがあります。そのため、甲状腺機能の検査(TSH、遊離T3、遊離T4などの測定)を定期的に行います。必要に応じて、画像検査などを用いることもあります。
副腎機能障害 副腎機能不全(頻度不明)などの副腎機能障害があらわれることがあるため、状態の観察をよく行いながら投与を行う必要があります。
1型糖尿病 1型糖尿病(0.9%)を発症することがあり、糖尿病性ケトアシドーシスに至るおそれがあります。1型糖尿病が疑われた場合には、投与を中止し、インスリン製剤を投与するなどの適切な処置が行われます。
心筋炎(頻度不明) 心筋細胞に炎症が起こる心筋炎(頻度不明)があらわれることがあります。胸痛やCKの上昇、心電図異常などを確認し、観察をしっかりと行っていく必要があります。
神経障害 末梢性ニューロパチー(0.9%)、ギラン・バレー症候群(頻度不明)などの神経障害があらわれることがあります。観察を十分に行う必要があり、もし異常が見られた場合には投与の中止などの対応が行われます。
腎障害 急性腎障害(頻度不明)、尿細管間質性腎炎(0.9%)などの腎障害があらわれることがあります。定期的に腎機能検査を行いますが、異常があらわれた場合には、投与中止などの適切な対応が行われます。
筋炎、横紋筋融解症 筋肉に炎症が起こることによって筋炎(頻度不明)、横紋筋融解症(頻度不明)があらわれることがあります。筋力低下や筋肉痛、CK上昇、血中及び尿中ミオグロビン上昇などの観察を行います。
インフュージョンリアクション アナフィラキシー、発熱、悪寒、呼吸困難などのインフュージョンリアクション(20.5%)があらわれることがあります。インフュージョンリアクションの症状が認められた場合には、投与を中止する等の適切な処置を行います。さらに症状が回復するまで状態の観察が行われます。また、2回目以降の投与時に症状が見られることがあるため、投与中・投与後の様子を観察しておくことが必要です。

その他の副作用について

表で紹介している重篤な副作用の他にも、下記のような副作用が起こる場合があります。

  • 血液およびリンパ系障害(リンパ球減少、血小板減少、貧血、好酸球増加)
  • 心臓障害(動悸)
  • 眼障害(眼刺激、眼痛、眼そう痒症、流涙増加、霧視)
  • 胃腸障害(悪心、下痢、嘔吐、便秘、口内乾燥など)
  • 全身障害(疲労、無力症など)
  • 肝胆道系障害(血中Al-P増加、胆管炎など)
  • 感染症(口腔カンジダ症、毛包炎、帯状疱疹、インフルエンザなど)
  • 代謝および栄養障害(食欲減退、低ナトリウム 血症、低リン 酸血症、体重減少、リパーゼ増加など)
  • 筋骨格系および結合組織障害(関節痛、筋肉 痛、血中CK増加など)
  • 精神・神経系障害(頭痛、浮動性 めまい、味覚異常、感覚鈍麻、錯感覚、など)
  • 腎及び尿路障害(自己免疫性腎炎)
  • 呼吸器、胸郭および縦隔障害(呼吸困難、咳嗽など)
  • 皮膚および皮下組織障害(発疹、そう痒症、斑状丘疹状皮疹、皮膚乾燥、多汗症、寝汗など)
  • 血管障害(潮紅、低血圧、高血圧)
  • その他(挫傷、腫瘍随伴症候群、腫瘍疼痛)

以上のような症状があらわれた場合には、ただちに担当医や看護師などに伝え、適切な対応を行います。場合によっては投与の中止が必要になるケースもあります。

使用上の注意について

バベンチオは、根治切除不能なメルケル細胞がんへの適用で承認を取得している薬ではありますが、全ての患者へ投与できるわけではありません。ここでは、バベンチオを投与できない人、また投与にあたって注意が特に必要になる人について説明していきます。

禁忌(投与ができない人)

バベンチオの投与が禁忌とされているのは、「本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者」とされています。そのため、バベンチオに含まれる成分に関して過敏な反応を示したことがある人に対しては投与することができません。

慎重投与が必要な人

下記に挙げる項目に当てはまる場合には、投与にあたって注意が必要です。
●自己免疫疾患にかかったことがある人
本来は自分自身に対しては働くことがない免疫が、自分の体や組織を攻撃してしまう自己免疫疾患にかかったことがある人の場合、免疫関連の副作用が発現または増悪するおそれがあります。自己免疫疾患には、膠原病(関節リウマチなど)、潰瘍性大腸炎、1型糖尿病などが該当しますが、これらの疾患にかかった経験がある人に関しては、バベンチオの投与を行うにあたって慎重に検討する必要があります。
間質性肺疾患にかかったことがある方
間質性肺疾患とは、肺の間質と呼ばれる部分に炎症が起こるものです。炎症が進行してしまうと、空気を十分に取り込むことができなくなるために命に危険を及ぼす可能性があります。間質性肺疾患にかかったことがある人の場合は、バベンチオの投与によって発現または増悪するおそれがあります。そのため、該当する人の場合にはバベンチオの投与にあたり、十分な注意が必要です。

高齢者への投与について

高齢者の場合は、一般的に生理機能が低下している場合が多いため、十分に観察を行いながら投与を行う必要があります。

妊婦、産婦、授乳婦などへの投与について

妊婦または妊娠している可能性がある女性については、投与の安全性が確立されていません。そのため、治療上の有益性が危険性を上回ると判断された場合にのみ投与されることになります。
また、授乳中の女性の場合は、投与により薬剤が乳汁中に移行する可能性があるため、授乳を中止する必要があります。
さらに、妊娠する可能性のある女性については、バベンチオ投与中また投与終了後、一定期間は確実な避妊法を用いるよう指導されます。

小児への投与について

小児を対象とした臨床試験は実施されていません。そのため、低出生体重児や新生児、乳児、幼児または小児に対する安全しは確立されていません。

参考文献・参考サイト