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塩分のがんに関する影響

私たちの食生活に欠かすことができない「塩分」。塩分の摂りすぎはさまざまな疾患につながるということは多くの人が認識しており、減塩の重要性について耳にする機会も増えてきました。食塩の摂りすぎはがんにも影響してくると考えられており、その関連性については世界中でさまざまな研究が行われています。そこで、この記事ではいくつかの研究や調査を取り上げながら、食塩ががんに及ぼす影響や、そのメカニズムに迫っていきます。

塩分とがんの関連性

世界保健機関(WHO)と食糧農業機関(FAO)では、2003年に「食物,栄養と慢性疾患の予防」と題した報告書を発表していますが、その中で、現状におけるエビデンスに基づく「がん予防効果の確からしさ」を4段階に分けて示しています。その中で塩分に関する言及が行われています。

可能性大と評価されたのは,予防要因としては野菜・果物(口腔,食道,胃,結腸,直腸)と身体活動(乳房),リスク要因として貯蔵肉(結腸,直腸),塩蔵品および食塩(胃),熱い飲食物(口腔,咽頭,食道)であった.

引用元:津金昌一郎「がん予防の現状と課題」(pdf)

上記の通り、食塩や塩蔵品はがんの発症に関与する可能性が高いと評価されています。そのため、がん予防のための食事指針において「中国式塩蔵魚の摂取や塩蔵食品・食塩の摂取は控えめにする」と記載されています。

どういった種類のがんリスクがあるのか

食塩の取りすぎは胃がんのリスクをあげると言われています。2016年に日本国内でがんによって死亡した人の中で多かったのが肺がん、次いで胃がんと続きますが、これはピロリ菌への感染や塩分の摂取過剰が原因であると考えられています。

ちなみに、現在は世界中でがんと食塩の関連について研究が行われていますが、これらの研究のきっかけは、1964年に立てられた仮説がきっかけとなっているようです。

1964年に胃ガンと脳卒中による死亡との間に強い地理的な相関関係が見出され,その二つの現象をつなぐ因子が食べ物の食塩であるらしいとの仮説が立てられ,ベルギーで減塩実験を行った結果,食塩摂取量の低下に伴い胃ガンと脳卒中の死亡率に低下が見られたことから食塩摂取量と胃ガンとの関係を調べる研究が始まったようである.

引用元:橋本壽夫「塩と健康(4) 食塩と各種疾患との関係」(pdf)

1日あたりの食塩摂取量

厚生労働省策定の「日本人の食事摂取基準2010年版」によると、日本人の1日あたりの食塩摂取量は「男性は9.0g未満、女性は7.5g未満」に抑えることを推奨されています。がん予防という観点からは「食塩は1日10g未満、特に塩分濃度が10%程度の高塩分食品は週に1回以内」と言われていますが、いずれにしてもさまざまな疾患を予防するために、減塩食を意識することが大切です。

しかし、2014年時点での1日あたりの食塩平均摂取量は「男性10.9g、女性9.2g」。減少傾向ではあるものの、いかに減塩が難しいことであるかということがわかります。

食塩摂取量において最も問題なのは、日常的にどの程度の塩分を摂取しているかを把握できていないということ。「米国人の食事中の食塩の75%以上がレストラン、加工食品、ファーストフードに由来している」というデータもあります。これは日本人においても同じことで、やはり外食が多くなると食塩摂取量が多くなるという傾向があります。

体に何か問題が発生してから塩分を減らすのではなく、普段から新鮮で栄養バランスの良い食品を、自分で調理するということが減塩の第一歩と言えるでしょう。

塩分ががんに悪影響を及ぼすという科学的根拠

1990年に岩手、秋田、長野、沖縄の4地域に住む40〜59歳の男女約4万人の方々に、食事や喫煙などの生活習慣に関するアンケート調査を実施しました。その後、10年の追跡期間中に、男性1万8684人中358人、女性2万381人中128人が胃がんになりました。

そこで研究グループでは、研究参加者を食塩摂取量によって男女それぞれ5つのグループに分け、最も少ないグループとその他のグループで胃がんリスクが何倍になるかを調査しています。

男性では、食塩摂取量が高いグループで胃がんリスクも明らかに高く、約2倍になりました。1年間当りで計算すると、食塩摂取量が最も低かったグループでは1000人に1人が胃がんになったのに対し、食塩摂取量が最も高かったグループでは500人に1人ということになります。女性では明らかな関連が見られませんでした。これは、実際に食塩摂取量とは関連がないという解釈に加え、女性の中で胃がんになった人が少なく正確なデータが出なかったこと、また、男性と比べて、女性ではアンケート調査という方法から食塩摂取量を正確に把握しにくいことなどの解釈が考えられます。

引用元:国立研究開発法人 国立がん研究センター 「食塩・塩蔵食品摂取と胃がんとの関連について」

味噌汁や漬物、たらこやイクラなどの塩蔵魚卵、塩鮭などの塩蔵魚、塩辛や練りうにといった塩蔵魚介類などは、塩分濃度の高い日本人特有の食品といえます。研究グループでは、これらの食品についても摂取頻度別にグループ分けし、胃がんのリスクについて比較を行っています。

男性ではいずれの食品でも摂取回数が増えるほど胃がんリスクも高くなりました。また、塩分濃度が10%程度と非常に高い塩蔵魚卵と塩辛、練りうになどでは、男女ともに、よく食べる人で胃がんリスクが明らかに高くなりました。総合的な食塩摂取量による胃がんリスクを反映しているのかもしれませんが、塩分濃度が高い食品が、特にリスクになるものと解釈出来ます。あるいは、食塩だけでなく、塩蔵加工で生成される化学物質が胃がんリスクに関わっているのかもしれません。

引用元:国立研究開発法人 国立がん研究センター 「食塩・塩蔵食品摂取と胃がんとの関連について」

以上の調査から、塩分濃度の高い食品を多く摂取すると、胃がんのリスクが上がる可能性が示唆されています。

また、国立がん研究センターでは、塩分・塩蔵食品の摂取量とがん・循環器疾患の発生率の関係についても調査をしています。ここで紹介するのは、1995年・98年に岩手、秋田、長野、沖縄、茨城、新潟、高知、長野、沖縄に住んでいた45歳から74歳の男女約8万人を対象に、2004年まで追跡調査を行った結果です。

この調査では、追跡開始時に食習慣についての詳しいアンケート(調理や食卓での調味、みそ汁の好みなども含む)を行い、「ナトリウム」と「塩蔵魚類または干魚、たらこ等の魚卵といった個々の塩蔵食品」の摂取量によって5つのグループに分け、その後に生じたがんや循環器疾患について発生率を比較。その追跡期間中に4,476人が何らかのがんと診断され、2,066人に循環器疾患の発症が確認されました。

なお、この調査では、あらかじめ性別、年齢、喫煙、肥満など、がんや循環器疾患のリスクを高めることがわかっている別の要因の影響を取り除いています。

その結果、塩蔵魚類または干魚、たらこ等の魚卵といった塩蔵食品の高摂取によって何らかのがんのリスクが高くなり、ナトリウム摂取によるリスク上昇は見られませんでした。逆に、ナトリウムの高摂取によって循環器疾患発症リスクが高くなり、塩蔵食品摂取によるリスク上昇は見られませんでした。

塩分・塩蔵食品との関係が知られている胃がんと脳卒中についても同様に調べました。やはり全体の結果と同様に、ナトリウムの高摂取による脳卒中リスク増加が見られた一方、胃がんのリスク増加は見られませんでした。反対に、塩蔵食品摂取で胃がんのリスク上昇が見られ(塩魚、魚卵摂取では大腸がんのリスクも上昇)、脳卒中のリスクは増加しませんでした(塩魚ではむしろ心筋梗塞のリスクが低下)。

引用元:国立研究開発法人 国立がん研究センター 「塩分・塩蔵食品と、がん・循環器疾患の関連について」

上記の結果から、国立がん研究センターでは、塩蔵食品を控えるほか、食卓や調味でのしょうゆや食塩による味付けを控えることで、がん・循環器疾患のどちらも予防することが期待できると考えられます。

なぜ塩分はがんに悪影響を及ぼすのか

塩分過多の食生活は、なぜ胃がんに影響を及ぼすのでしょうか。

これは、食塩を摂りすぎると胃の粘膜がダメージを受けやすい状態になり、炎症を起こすことが関連していると言われています。

動物実験などから、胃の中で食塩の濃度が高まると粘膜がダメージを受け、胃炎が発生し、発がん物質の影響を受けやすくなることが示されています。そのような環境では、慢性的に感染することにより胃がんリスクを高めることが知られているヘリコバクター・ピロリという細菌の感染も起こりやすくなることが知られています。

引用元:国立研究開発法人 国立がん研究センター 「塩分・塩蔵食品と、がん・循環器疾患の関連について」

また、塩分が多い食事をよく摂取する人はピロリ菌の感染率が高いというデータもあります。上記の通り、粘液で保護されている胃の粘膜は、高塩分食を継続して摂取することで、破壊されたり変化したりして炎症を起こし、結果としてピロリ菌が入り込みやすくなってしまうのです。

ピロリ菌感染者は必ずしも胃がんを発症する、というわけではないものの、ピロリ菌の感染に高塩分食や喫煙、野菜不足などといった他の要因がプラスされることによって、胃がんの発生が促進されると考えられています。

さらに、食塩の摂りすぎにより胃炎を起こしやすくなり、慢性胃炎になってしまうと胃の粘膜が萎縮して薄くなります。この状態になると胃の中にピロリ菌は存在できなくなるためにピロリ菌検査では陰性と判定されるものの、炎症が起こっている以上胃がんのリスクが高まっていることには変わりがないため、注意が必要です。

塩分ががんに悪影響を及ぼすという意見を否定する見解

A.J.CohenとF.J.Roeは、さまざまな文献をレビューすることによって食塩と胃がんの関連について下記のような見解を示しています。

過去40―50年の間に世界中で胃ガン発症率は著しく低下した.これは家庭用冷蔵庫の普及と関係しており,それにより食品 保存は大きく改善され,生野菜,果物の栄養的な品質が維持されるようになった.増加した危険率は高い塩蔵食品だけでなく,澱粉質食品,薫製食品,油で揚げた食品消費量とも関連しており,一方,減少した危険率は新鮮な野菜や果物の摂取量と関係しており,食塩摂取量の低下によることを支持している根拠はない,と考察している.

引用元:橋本壽夫「塩と健康(4) 食塩と各種疾患との関係」(pdf)

A.J.CohenとF.J.Roeによる上記の報告の中では、胃がんの減少には新鮮な野菜や果物の摂取量が関係しているとしています。確かに、胃がんについては果物や野菜を摂取することによってがんのリスクが低くなることが期待されています。これは新鮮な野菜や果物にはカリウムが豊富に含まれていることから、摂取しすぎた余分な塩分が排出されることが関連している、という意見もあります。

とはいえ、塩分の取りすぎに注意しておくに越したことはないでしょう。

塩分ががん以外に及ぼすリスクとは

塩分の過剰摂取は、がん以外にもさまざまな健康リスクを及ぼすと考えられています。健康的な体を保つためには、日々の生活の中で減塩を意識することが大切です。

高血圧

塩分を過剰に摂取すると、高血圧症を引き起こすことはよく知られています。これは、人間の体には塩分濃度を一定に保つ働きがあることが関係しています。塩分を過剰に摂取すると血液中の塩分濃度が高くなるため、体は水分を多く溜め込もうとします。そのために血液量が増えてしまうのですが、大量の血液を流すために血管壁に高い圧力がかかるようになり、「高血圧」の状態が発生します。高血圧症はさまざまな疾患の原因になるため、予備軍と判断された場合には早めの生活改善が必要です。

動脈硬化

高血圧の状態が続くと、血管壁の内側がダメージを受け続けることになります。すると血管壁の内側がもろくなったり、柔軟さがなくなって硬くなったりしますが、この状態が動脈硬化と呼ばれるものです。動脈硬化には高血圧が関与しており、高血圧の大きな原因は塩分の摂りすぎと考えられています。

動脈硬化が起こると、さまざまな血管の病気を引き起こすことがわかっており、心臓疾患や脳血管疾患につながることもあるため、しっかりと予防に努めていく必要があります。

参考文献・参考サイト