2002年、じゃがいもを揚げた加工食品にアクリルアミドと呼ばれる発がん物質が含まれていると報告されました。このことから、ポテトチップスの発がんリスクについて各種メディアで取り上げられたことを覚えている人も多いのではないでしょうか。ただし、問題となっているアクリルアミドは、ポテトチップスに限らず、さまざまな食品に含まれる物質。ここでは過去に行われた研究データを元に、アクリルアミドとがんの関連性について解説します。
ポテトチップスとは、じゃがいもを薄切りにして冷水に短時間さらし、高温の油で揚げて塩や香辛料を用いて味付けしたスナック菓子のことです。現在では多くのメーカーからさまざまな種類の商品が販売されており、嗜好品として購入する機会も多いことでしょう。
そんな身近なおやつとして親しまれているポテトチップスですが、2002年にスウェーデンで「いも類を高温で焼いた、あるいは揚げた食品の中に『アクリルアミド』と呼ばれる物質が含まれている」という研究結果が報告され、大きな話題となりました。現在、このアクリルアミドはWHOの下部組織である国際がん研究機関(IARC)で「おそらく発がん性がある物質」として分類されています。
アクリルアミドが炭水化物を多く含む食品から検出されたと発表されたのは2002年4月のこと。これは、環境汚染問題でアクリルアミドについて調査を行っていたスウェーデンによって発表されたものです。
元々は工業用に広く使用されていたアクリルアミドが、たくさんの加熱加工食品から検出されたという報告は、世界中に大きな衝撃を与えました。この時にポテトチップスに高濃度含有が認められたと発表されたことから、ポテトチップスと発がん性が結びつけられるようになったという経緯があります。
ただし、実際には他の食品にもアクリルアミドが含まれており、ほとんどの人が日常的に摂取しているというデータもあります。平均的な摂取量は「体重1kgあたり、1日1μg」。高摂取群では「体重1kgあたり1日4μg」摂取していると推定されています(2005年、2010年に行われた評価です)。
アクリルアミドが生成されるメカニズムは下記の通りです。
食品中に含まれるアミノ酸の一種であるアスパラギンとフラクトース(果糖)やグルコース(ブドウ糖)などの還元糖を120℃以上で加熱調理すると,メイラード反応を起こし,アクリルアミドが生成するといわれています。炭水化物をあまり含まない肉や魚は高温で加熱調理を行っても生成量は多くありません。メイラード反応により褐変物質が生成されるため,同じ食 品では褐色の濃いものがアクリルアミド含有量が多いと考えられます。アクリルアミドの生成 は,温度,加熱時間,水分,pH などに影響され,食品中の濃度は同じ食品でもかなりバラツキがあります。
今のところ、食品を加熱した時に起こる「メイラード反応」がアクリルアミドの生成に関係していると考えられています。しかしメイラード反応以外でもアクリルアミドを生成する可能性があるという意見もあり、研究が続けられています。
アクリルアミドは、ポテトチップスだけでなく、さまざまな食品に含まれてる物質です。農林水産省によると、下記のような食品にアクリルアミドが含まれているとされています。
アミノ酸の一種であるアスパラギンと還元糖であるグルコースやフルクトースを多く含む食品は、高温で調理した場合にアクリルアミドが生成しやすいと考えられています。これまでの報告で、特にアクリルアミドが多く含まれていた食品は、ポテトチップス、フライドポテトなどのじゃがいもを揚げたスナックや、ビスケットなどの小麦を原料とする焼き菓子です。また、コーヒー豆、ほうじ茶葉、煎り麦のように、高温で焙煎した食品にもアクリルアミドが多く含まれていることが報告されています。アクリルアミドは、商業的に製造された加工食品だけでなく、家庭やレストラン等で調理された食品からも検出されています。
上記で挙げられている食品の他に、野菜類やリンゴなどをオーブンで加熱したものからもアクリルアミドが検出されたというデータもあります。
ただし、農林水産省では「食品中のアクリルアミドを低減するための指針」を作成することによって、食品関連事業者におけるアクリルアミド低減のための取り組みを支援しています。そのため、各事業者ごとにさまざまな取り組みが行われてきた結果、以前よりもアクリルアミドの含有量が少なくなっている可能性があります。
人がアクリルアミドを経口摂取した際のがんリスクについては、現時点でははっきりと確認されていません。しかし食品から多くのアクリルアミドを摂取した人は特定の発がん性リスクが高まる、という内容の論文も発表されています。
しかし、個人が食品から摂取しているアクリルアミドの量を把握することは難しい上に、食品には他にも多くの化学物質が含まれています。そのため、ヒトが経口摂取したアクリルアミドとがんの関連性については、現在も研究が続けられているという状況です。
国際がん研究機関(IARC)は、アクリルアミドを「ヒトに対しておそらく発がん性がある」ことを意味するグループ2Aに分類しています。その根拠は、人に対する発がん性の証拠は不十分であるものの、動物実験における発がん性の証拠が十分にあることから、とされています。
以下、アクリルアミドに関する動物実験の結果をご紹介します。
・ラットに、アクリルアミドを強制経口投与した試験で、雄ラットでは精巣中皮腫、甲状腺ろ胞細胞腺腫が、雌ラットでは甲状腺ろ胞細胞腺腫、乳腺腫、中枢神経系の神経膠腫、口腔乳頭腫、子宮腺がん、陰核腺腺腫がそれぞれ用量に依存して増加 (Johnson et al., 1984, 1986)
・マウスに、アクリルアミドを強制経口投与及び腹腔内投与した試験で、肺腺腫の発生動物数と1匹あたりの肺腺腫数が用量に依存して増加 (Friedman et al., 1995)
・マウスに、アクリルアミドを経口、経皮、腹腔内のそれぞれの経路で投与した後に、代表的な発がんプロモーターであるテトラデカノイルホルボールアセテート(TPA)を皮膚に塗布した試験で、アクリルアミド用量に依存して扁平上皮がんが増加 (Bull et al., 1984)
さまざまな動物実験の結果、アクリルアミドの摂取量によって発がん率が増えるという内容の報告が行われてきました。これは、下記のような理由があるためと考えられます。
動物試験では、アクリルアミドを長期間にわたって与えたときに、アクリルアミドの摂取量が多いほど発がん率が増えることが報告されています。アクリルアミドが動物で発がんを引き起こす原因は、アクリルアミドが細胞の中の遺伝子を傷付けるためと考えられています。ヒトがアクリルアミドを摂取した場合も同じように遺伝子を傷付ける可能性があるため、アクリルアミドはヒトに対しておそらく発がん性がある物質と考えられています。
さまざまな食品にアクリルアミドが含まれていることがわかっているものの、農林水産省では「アクリルアミド濃度が高い食品は食べない方が良いですか?」という問いに対して下記のように回答を行っています。
一番大切なことは、バランスの良い食生活を送っていただくことです。そうすることで、健康の維持に必要な栄養素を必要量とることができます。また、野菜や果物をしっかりとり、塩辛い食品を控えると、がんなどの生活習慣病を予防できます。さらに、バランスの良い食生活を送ると、特定の食品をたくさん食べることにはならないので、その食品からとるアクリルアミドの量が多くならず、食品全体からとる量も低く抑えることができます。
食品からとるアクリルアミドの量を減らそうとして、むやみに食品の加熱をやめたり、加熱した食品の食べる量を減らしたりするのはやめましょう。それによって、健康の維持に必要な栄養素を必要量とることができなくなる可能性があります。また、食品を十分に加熱しないで食べることや生のままで食品を食べる機会を増やすことは、かえって食中毒になる可能性を高めることになりますし、消化を悪くすることもあります。特に加熱調理用と表示されている食肉・食肉加工品や水産物・水産加工品などの食材は、十分に加熱してから食べることが重要です。
上記の通り、アクリルアミドの摂取に関して必要以上に神経質になるよりも、食事のバランスを意識することが大切という見解が示されています。逆に、アクリルアミドを気にするあまり、食生活のバランスが崩れてしまったり、十分に加熱せずに食べることで起こる食中毒などのリスクの方に注意する必要がありそうです。
ただし、食事のバランスを整えた上であれば、アクリルアミドをできるだけ発生させないような調理方法を意識することも大切です。例えば、煮る・茹でる・蒸すといった調理方法を選択すると良いでしょう。しかし、これまで家庭での調理とアクリルアミド発生の関連性を調査した報告はほとんどありません。そこで、カルビー株式会社と日本スナック・シリアルフーズ協会の共同研究グループでは、さまざまな野菜に対して加熱調理を行った際のアクリルアミド(AAm)生成について調査した結果を報告しました。
結果、種々の野菜類・いも類を加熱調理することによってAAmが生成した。今回検討したサンプルの中では、もやしを加熱調理した時に2,210ppbと最も高いAAmが生成した。ついで、にんにくでは2,090ppbであった。そしてAAm含有と野菜類・いも類中のアスパラギン(Asn)とに強い相関が見られた。しかし、Asn含量が低くても加熱が弱いとAAm含量が高くなる可能性があることがわかった。このことから、家庭での調理においても過度な加熱調理を避けることでAAm生成が抑制されることが示唆された。
ポテトチップスは油で揚げている食品であることから高カロリー。食べ過ぎると下記のリスクがあるため、注意する必要があります。
現在はお菓子も多様化が進んでおり、中には低カロリーを売りにしているポテトチップスもありますが、一般的にはポテトチップスは高カロリーな食品。そのため、食べ過ぎてしまうと肥満やメタボリック症候群につながってしまいます。肥満はさまざまな疾患の原因となるため、早めに対処しておきたいもの。食べ過ぎて太ってきたな、と感じている人は、運動を取り入れたり間食を減らすなどして減量に取り組みましょう。
また、油で揚げた後に塩などで味をつけていることから、ポテトチップスを食べ過ぎると塩分過多になる可能性があります。日本人はもともと塩分の多い食習慣の傾向があるため、嗜好品でさらに塩分を摂るということになると、高血圧症などのリスクが考えられます。