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水道水のがんに関する影響

毎日料理やお風呂、洗顔などさまざまな場面で利用している水道水。この水道水に、がんのリスクを上げる物質が含まれているという報告があり、話題になりました。しかし、日本の水道水は厳格な水質基準が定められており、問題となっている物質が含まれる量はごくわずかです。とはいえ、どのような物質が含まれているのか気になる人も多いはず。そこで、世界で行われている研究や報告をもとに、水道水に含まれている物質について解説します。

水道水とは

水道水の元になるのは、地上に降り注いだ雨や雪。これらが地下に浸透して集まり、河川や湖、地下水になります。この水が浄水場できれいな水に変わり、各家庭に供給されています。この水道水に含まれる物質のうち、気になる成分として挙げられているのがトリハロメタンやヒ素です。

日本の水道水は厳格な水質基準に基づいて管理されています。そのため、これらの物質の含有量は微量であるため、健康被害が起きる可能性は極めて低いと考えられていますが、どのような物質なのかは理解しておきましょう。

トリハロメタンとは

トリハロメタンとは、水道水の水源となっている河川やダムの水に含まれている有機物(フミン酸やフルボ酸などの生物分解が困難な物質)と、その水をきれいにするために浄水場にて加えられる塩素が反応してできる物質のことです。塩素は本来、消毒のために加えられるものですが、この塩素により副産物として生成されてしまうため、トリハロメタンは「消毒副生成物」とも呼ばれています。

トリハロメタンは、メタン(CH4)の持つ4つの水素原子(H)のうち、3つが臭素原子(Br)や塩素原子(Cl)などのハロゲンに置き換わった構造の化合物です。水道水中では、消毒に使われている塩素が微量な有機物と反応することで、クロロホルム(CHCl3)、ブロモジクロロメタン(CHBrCl2)、ジブロモクロロメタン(CHBr2Cl)、ブロモホルム(CHBr3)の4種類が主に生成します。これらを総称して総トリハロメタンといいます。

引用元:札幌市水道局「水質トピック 第10回「トリハロメタン」」

河川やダムの水に塩素を加えた際に発生するトリハロメタンのうち、クロロホルムとブロモジクロロメタンは、国際がん研究機関(IARC)により発がん性が疑われる物質と発表されています。

そのため、日本の水質基準では「総トリハロメタンとして0.1mg/L(1リットルあたり1万分の1グラム)」と定められており、水道水はこの基準値以内で供給されているため、飲んでも心配ないと言えるでしょう。

ヒ素

ヒ素とは、自然界に多く存在している物質です。地殻中に存在しており、火山活動や森林火災によって大気中に放出されるという特徴があります。

このヒ素を飲料水から摂取することにより健康被害が起きるというケースがありますが、日本では水道システムが整備されていること、さらにヒ素に関する排出規制、水質基準の設定(水道水中のヒ素濃度を水道法で0.01mg/L未満)によって、飲料水に含まれるヒ素の量は非常に低く維持されています。

海外(インド、バングラデシュなど)には、自然由来のヒ素や産業活動で排出されたヒ素が地下水や河川水を汚染し、それを飲料水として利用した住民に健康被害が起きている地域があります。

日本では、上記のとおり飲料水中のヒ素濃度は低い状態で管理されていますが、平成15年に茨城県で、高濃度のヒ素化合物を含む井戸水を飲んだ住民に健康被害が起きた事例がありました。これは、旧日本軍が化学兵器に使用した物質の原料でもある「ジフェニルアルシン酸」というヒ素化合物を含む廃棄物が、住民の利用する井戸の近隣に不法投棄されたことが原因でした。

引用元:農林水産省「食品中のヒ素に関する基礎情報」

国際がん研究機関(IARC)では、ヒ素で汚染されている井戸水を引用している地域(海外)の住民や、職業的にヒ素に高濃度暴露されている人のデータをもとに、ヒ素および無機ヒ素化合物は、発がん性があると分類しています。

アスベスト

一時期、アスベスト(石綿)による健康被害がニュースを賑わせました。アスベストを吸入することにより、肺の組織内に長く滞留し、肺の線維化や肺がんなどの病気を引き起こすという報告がされたためです。

水道管においても昭和30年代から低価格・対腐食対電気性といった特徴を持つアスベストが多く使用されてきましたが、老朽化が進んだことにより、各市町村の水道業者によって水道管の入れ替えが実施されてきました。東京都の水道局によると、下記の通り入れ替えが進んでいるようです。

水道用の石綿セメント管は、材質強度が劣ることから、震災対策及び漏水防止対策として昭和48年度より計画的に取替えを実施してきました。その結果、区部は平成9年度末までに全て取替えを完了し、多摩地区では平成19年度末までにおおむね取替えを完了しました。

引用元:東京都水道局「よくある質問」

水道水ががんに悪影響を及ぼすという科学的根拠

水道水に含まれる物質ががんに悪影響を及ぼすという内容について報告している研究をご紹介します。

トリハロメタンによる影響

トリハロメタンによるがんリスクの上昇については、もともと1972年にアメリカで飲用水の中からクロロホルムが検出されたことがきっかけで調査されるようになりました。

トリハロメタン問題は,1972年にライン川の河川水からクロロホルム(トリハロメタンの一種)が検出され,その原因が河川水を塩素処理することによるクロロホルム生成であるとの報告に端を発した。また,ほぼ同時に,ミシシッピ川下流のニューオーリンズ市民のがん死亡率が高いのは水道水が原因であるとの論文が公表され,米国環境保護庁による調査の結果,水道水中にクロロホルムが高い濃度で検出された。さらに,トリハロメタンの発がん性が動物実験により判明したため,世界的にトリハロメタンへの関心が高まった。

引用元:多田 弘、大戸 時喜雄「トリハロメタンの検出と低減化技術」

トリハロメタンによるがんリスクに関しては、世界中でさまざまな意見がありますが、クロロホルムとブロモジクロロメタンは「発がん性が疑われる」化学物質に分類されています。その一方、ジブロモクロロメタン、ブロモホルムは「発がん性が分類できない」という分類となっています。

ヒ素による影響

ヒ素に関しては、体内に入ったときに下記のような影響があると報告されています。

ヒ素化合物のうち有機ヒ素については、ヒトの体の中に入ったときにどのような影響があるのか現在のところよく分かっていません。欧州食品安全機関(EFSA)や米国食品医薬品局(FDA)の評価によると、一般的に有機ヒ素は無機ヒ素に比べるとその悪影響の程度は小さいと言われています。

一方、無機ヒ素が一度に、または短い期間に大量に体の中に入った場合は、発熱、下痢、嘔吐、興奮、脱毛などの症状があらわれると報告されています。また、無機ヒ素が長期間にわたって、継続的かつ大量に体の中に入った場合には、皮膚組織の変化やがんの発生などの悪影響があると報告されています。

引用元:農林水産省「食品中のヒ素に関する基礎情報」

ただし、水道水に含まれているヒ素はごく微量。そのため、上記の内容にある通り「大量に体の中に入ったとき」という状況は起こりにくいと考えられます。

アスベストに関する調査

アスベストに関しては、1981年にサンフランシスコ・オークランドで水道水に含まれるアスベストとがん罹患の関係について調査が行われました。調査の評価方法としては、オークランドの410地区を水道水に含まれるアスベスト濃度により4区分に分類し、がんの罹患率を調べています(1969年から1974年のがん登録データを使用)。

その結果、白人男性では、食道がん・胃がん・肝臓癌で、白人女性の場合は食道がん、胃がん、肝臓がん、胆嚢がん、後腹膜がんでそれぞれがん罹患との関係が認められたという結論が出されています。

水道水ががんに悪影響を及ぼすという意見を否定する見解

水道水に含まれる物質にがんリスクを上げるものがあるという意見がある一方、特に日本では水道水は安全であると考えられています。

トリハロメタン、ヒ素に関しては厳格な水質基準により管理されている

これまで述べてきたように、日本における水道の水質基準は非常に厳格に管理されています。

水質基準項目は51項目定められており、その中で、「総トリハロメタン」は「0.1mg/L以下」、「ヒ素の量に関して 0.01mg/L以下」と定められていますが、当然水道水として供給されている水についてはこの項目をクリアしていると確認されているため、健康に影響を及ぼす可能性は低いと考えられます。

アスベストに関する調査

新潟大学医学部では、国内外の諸論文を検証することにより、水道水を介したアスベスト摂取とがん罹患の相関について、その因果関係について評価をしています。

WHOの報告によると,「アスベストを飲料水から摂取することが発がんのリスクを増加させる,という仮説を支持する疫学的な研究は存在しない.また,実験動物を用いた広範な研究によっても,アスベストが常に消化管系の腫壕を発生させるわけではないことが分かっている.したがって,飲料水からのアスベスト摂取が人体にとって危険であるという明確な証拠は無く,飲料水中のアスベストに関するガイドラインを設定する必要は無い」と結論づけている。

水道水を介したアスベスト摂取と消化器系がんの罹患との間に有意な関係が一部の論文で認められたが,多くの論文では関係性に乏しいか,あるいは,積極的には肯定できないという結果であった.

引用元:山本正彦「水道水中のアスベストとがん罹患との関係」

上記の調査で取り上げている論文の中では、消化器系のがんや胃がん、咽頭癌など一部のがんで関連が確認されているものの、観察期間の短さや呼吸からのアスベスト吸入、水道水に含まれるトリハロメタンやヒ素などによる影響が考慮されていないということも指摘されています。そのため、水道水に含まれるアスベストとがんの間には、必ずしも関係があるとは断定できないと考えられます。

また、アスベストで作られた水道管を通過した水道水の健康に関する影響について、厚生労働省では次のような見解を平成17年に発表しています。

(1)平成4年(1992年)に改正した水道水質基準の検討時にアスベスト(石綿)の毒性を評価したが、アスベストは呼吸器からの吸入に比べ経口摂取に伴う毒性はきわめて小さく、また、水道水中のアスベストの存在量は問題となるレベルにないことから、水質基準の設定を行わないとしたところ。

(2)世界保健機関(WHO)が策定・公表している飲料水水質ガイドラインにおいても、飲料水中のアスベストについては、“健康影響の観点からガイドライン値を定める必要はないと結論できる。”としているところ。

引用元:厚生労働省健康局水道課「水道管に使用されている石綿セメント管について」

以上の報告から考えると、日本の水道水を飲用することにおける健康への影響はないと判断されています。

水道水をより安全に飲む方法

日本の水道水は厳格に管理されており、安全であると結論づけられていますが、より安全に飲むために対策しておきたいことをご紹介します。

トリハロメタンは煮沸でほぼ除去することが可能

各水道局が出しているデータを見るとわかるとおり、現在提供されている水道水に含まれるトリハロメタンの量は基準値を大きく下回っているため、発がんリスクに関しては心配ないと言われています。

ただ、それでも心配という人もいるかもしれません。その場合は水道水を煮沸することにより、ほぼトリハロメタンを除去することが可能です。札幌市水道局からも、下記のようなコメントが発表されています。

それでも心配だという方は、水道水を煮沸して下さい。沸騰直後は残留塩素と有機物の反応が加速するためトリハロメタンが一時的に増加しますが、トリハロメタンには揮発しやすい性質があるので、沸騰後5分間以上煮沸するとほぼ完全に除去することが出来るということが実験で確認されています。

引用元:札幌市水道局「水質トピック 第10回「トリハロメタン」」

このように、手間はかかることになりますが、自身で煮沸することにより、さらに安全に水道水を飲むことができるようになるため、どうしても気になる場合にはぜひ試してみると良いでしょう。

水質汚濁が進まないよう心がけることも必要

トリハロメタンは、河川やダムの水を塩素処理するときに生成されるもの。そのため、河川やダムの水質汚濁が進んでしまうと、浄化に必要な塩素の量も増えてしまいます。つまり、塩素量の増加に伴って生成されるトリハロメタンの量も増えてしまうことになります。

現状では水道水のトリハロメタンの量は基準値を大きく下回っているとはいえ、今後もトリハロメタンの発生を抑えていくために、水源の水を汚さないという努力が必要です。例えば食事や料理に使った油の残りを流さずにきちんと処理をする、必要以上に洗剤を使いすぎないと言った毎日の心がけが大切だということを忘れないようにしましょう。

参考文献・参考サイト