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加工肉のがんに関する影響

2015年に国際がん研究機関から、ハムや加工肉を摂取すると大腸がんのリスクが上がる」との見解が示され、世界的に物議を醸したことが記憶にある方もいるでしょう。加工肉とがんの関係については、関連性があるという意見と、「影響はほとんどない」「少量であれば関連は見られない」という意見があり、消費者もどのように対応したら良いのか迷ってしまう部分もあるかもしれません。そこで、いくつかの研究報告を取り上げ、加工肉とがんの関係について見ていくことにしましょう。

加工肉とは

加工肉とは、加工処理を施された肉製品のことを指します。代表的なものとしてはハムやソーセージ、ベーコンなどがあり、家庭料理でもよく用いられています。なお、生肉に脂肪などを注入した「脂肪注入加工肉」や、肉片を結着した「成型肉」なども加工肉として分類されています。

2015年10月、世界保健機関(WHO)傘下の国際がん研究機関(IARC)が「ハムなどの加工肉は発がん性が十分認められ、大腸がんになるリスクがある」という見解を発表したことが話題になり、さまざまな調査が行われました。

どういった種類のがんリスクがあるのか

これまでに報告されている、加工肉の摂取過多によってリスクが上昇するがんの種類としては「大腸がん」「乳がん」が挙げられています。ただし、加工肉ががんリスクを上げるという報告に対して否定的な見解も多くあります。

加工肉ががんに悪影響を及ぼすという科学的根拠

加工肉と大腸がんリスクの関係については長年多くの研究が行われてきました。下記の調査は、英オックスフォード大学が主導し、キャンサー・リサーチUK(イギリスのがん研究団体)が支援して行われたもの。この研究は、「UKバイオバンク」が保管している約50万人分のデータを、6年にわたって分析したものです。

最新の研究では、英国の成人50万人のデータを解析し、加工肉や赤味肉の摂取レベルが中等度である人は低度である人よりも大腸がんのリスクが20%高まることが分かりました。つまり、本研究において、1日当たり21gの赤身肉と加工肉を摂取した場合、10,000人毎に40人が大腸がんと診断されました。そして、1日当たり加工肉と赤身肉を76g摂取した場合は、10,000人毎に大腸がんが8件増加しました。

2018年にこのエビデンスを精査したところ、1日当たりの消費量が加工肉だと50g、赤味肉だと100g増えるごとに大腸がんのリスクが高まることが判明しました。

引用元:海外がん医療情報リファレンス「加工肉が、がんを引き起こす仕組みと影響」

このような報告がされていることからも、イギリスの保健省では、毎日90gを超えて赤肉や加工肉を摂取している人に対して70gまで摂取量を減らすように勧告しています。

また、別の研究報告もご紹介します。グラスゴー大学の研究者によると、加工肉を食べることによって乳がんのリスクが上がる傾向があるという内容です。

本研究は、以前の研究の結果と262,195人の英国女性を対象とした新規研究をまとめて検証した。 その結果、加工肉を食べた閉経後女性は加工肉を食べなかった女性よりも乳がんになる可能性が9%高いことがわかった。 英国の新規研究だけをみると、加工肉をもっとも多く(1日9g以上)食べた閉経後女性は、加工肉を食べなかった人よりも乳がんのリスクが21%高いことがわかった。

引用元:海外がん医療情報リファレンス「ベーコンなどの加工肉が、乳がんリスクを高める可能性」

上記の通り、加工肉とがんの関連についてはこれまで世界中でさまざまな研究が行われてきています。しかし乳がんへの影響ついては複数の研究の間で結果が相反しているため、加工肉と乳がんに関係があるかどうかははっきりしていない、という意見もあります。

なぜ加工肉はがんに悪影響を及ぼすのか

赤肉や加工肉を摂取するとなぜがんのリスクが上昇するのかということについては、さまざまな可能性が考えられていますが、「明確にはわかっていない」という意見もあります。ここでは、国立がん研究センターの津金氏による見解をご紹介します。

赤肉・加工肉による大腸がんリスク増加のメカニズムは、ヘム鉄による酸化作用、動物性脂肪の消化における二次胆汁酸、調理の過程で生成される焦げた部分に含まれるヘテロサイクリックアミンや多環芳香族炭化水素、保存・加工の過程で生じるニトロソ化合物などの発がん化学物質などの関連が示唆されていますが明確には分かっていません。

引用元:津金 昌一郎(国立がん研究センター 社会と健康研究センター長)「がんを遠ざける食生活」

赤肉や加工肉を多く摂取しているアメリカなどでは、がんや循環器疾患の発症リスクが高いという調査結果が出ています。しかし、後述の「加工肉ががんに悪影響を及ぼすという意見を否定する見解」で説明しているように、日本における赤肉や加工肉の摂取量は世界的に見ても少ないというデータがあります。

そのため、過剰に摂取するばかりか、逆に赤肉や加工肉の摂取推奨量を下回っている日本人の方が多いと考えられると結論づけられています。

加工肉ががんに悪影響を及ぼすという意見を否定する見解

国際がん研究機関(IARC)が2015年に行った、「ハムなどの加工肉は発がん性が十分認められ、大腸がんになるリスクがある」という発表に対し、下記のように各団体から声明が出されています。

  • 北米食肉協会が「特定の結論を導くためデータをゆがめた」などの反論を公表
  • 日本食肉加工協会など国内3団体により共同で「加工肉に対する信頼を揺るがしかねない」との声明

これらのさまざまな対応に対して、WHOでは「加工肉を食べないように求めるものではない」という追加声明を発表しました。

また国際がん研究機関(IARC)の発表に対し、日本国内でも国立がんセンターによって赤肉・加工肉の摂取量と大腸がんの発生率に関する追跡調査が発表されています。

国立がんセンターによる調査

ここで、加工肉と大腸がんの発生率に関する国立がんセンターの調査をご紹介します。

国立がん研究センターでは、1995年と1998年に、岩手県、秋田県、長野県、沖縄県、茨城県、新潟県、高知県、長崎県、大阪府に住んでいる、がんや循環器疾患のない45歳から74歳の男女約8万人に対してアンケートを行い、その後2006年まで追跡調査を実施。加工肉を含む肉類の摂取量と大腸がんの発生率の関係を調べました。

その方法としては、調査開始時にとったアンケート結果をもとに、赤肉とハムやソーセージなどの加工肉の摂取量によって5グループに分け、その後に発症した結腸・直腸がんの発生率を調べるというものでした。

赤肉の摂取量が多いグループで女性の結腸がんのリスクが高くなり、肉類全体の摂取量が多いグループで男性の結腸がんリスクが高くなりました。また、男女ともにおいて加工肉摂取による結腸・直腸がんの統計的に有意な結腸・直腸がんのリスク上昇は見られませんでした。

男性・女性のいずれにおいても、加工肉摂取による結腸・直腸がんのリスク上昇は見られませんでした。ただし、加工肉摂取量をもう少し細かく10グループに分けたところ、男性において最も摂取量の多い群で、結腸がんリスクの上昇が見られました(摂取量の少ない下位10%の群と比べ、上位10%の群では発生率が1.37倍)。つまり、日本人が一般的に食べるレベルでは、はっきりとしたリスクにはならないけれども、通常よりもはるかに多量に摂取する一部の男性では、結腸がん発生リスクを上げる可能性は否定できません。

引用元:国立研究開発法人 国立がん研究センター「赤肉・加工肉摂取量と大腸がん罹患リスクについて」

以上の報告から、赤肉の摂取によっては結腸がんのリスクは上昇するものの、加工肉に関しては標準的な摂取量であればはっきりとしたリスク上昇は見られなかったということがわかります。

ただし、通常よりもはるかに多量に加工肉を摂取するという場合は、摂取量の少ないグループよりもがん発生率の上昇が見られたため、摂取量に注意する必要がありそうです。

宮城県における調査

また、東北大学大学院医学系研究科医科学専攻 社会医学講座公衆衛生学分野でも、宮城県コホート研究のデータから「肉類の摂取と大腸がん発症リスクにおける関連性」についての研究が行われています。

ベースライン調査として1990年6月から8月に、宮城県内在住の40歳から64歳の男女約5万2千人に対して生活習慣アンケートを実施。食事内容に関するアンケートの結果から、対象者が1日あたりどれだけの肉類を摂取しているか(牛肉、豚肉、ハム・ソーセージ、鳥肉、レバー)を割り出し、4つのグループに分けて大腸がんの発生率を比較しました。

アンケート実施時点で、がんの既往歴があると判明した人やアンケート結果に不備があった人についてはあらかじめ調査対象から外した上で、追跡調査中に大腸がんが確認されたのは、約4万2千人の追跡調査対象者のうち474人(結腸がん280人、直腸がん198人、結腸がん・直腸がん両方4人)です。もちろん、大腸がんの発症リスクに関わる他の条件については、できるだけ結果に影響が出ないような形で調査が行われています。

その結果、肉の摂取量が最も多かったグループにおける大腸がんの発症リスクは、最も肉の摂取量が最も少なかったグループと比較した場合でも、特に差はありませんでした(結腸・直腸・近位結腸・遠位結腸の部位別に比較した場合も結果は同様)。

また、肉の種類別に比較した場合でも、ハムやソーセージなどの加工肉を最もよく食べていたグループでも、大腸がんの発症リスクが高くなったということはなかったと報告されています。

日本人の標準的な摂取量であれば大腸がんのリスクは少ない

結論として、日本人が平均的に摂取している加工肉の量であれば、大腸がんのリスクが上がる可能性は「ほとんど無い、もしくはあっても極めて小さい」ということになります。

世界的に見れば、日本人が加工肉を口にする量は少なく、ドイツの約4割程度にとどまっています。ただし、日本人の食生活が欧米化していることも事実であり、今後は加工肉の摂取が現在よりも増えていく可能性もあります。こうした変化によって大腸がんが増えているという指摘もありますが、加工肉に関しては標準的な量を食べているのであれば、リスクが急に上がるとは考えにくいと考えられています。

加工肉ががん以外に及ぼすリスクとは

ハムやソーセージ、ベーコンといった加工肉は非常に便利であるため、料理に使用しているという人も多いでしょう。ただし、あまりにも食べ過ぎると塩分過多に陥ってしまう可能性があります。

食べ過ぎは塩分の摂りすぎにつながる

ハムやベーコンなどの加工肉には塩分が多く含まれています。商品によっても異なりますが、目安としてロースハム2枚で1.0g、ベーコン2枚で1.0g、熟成生ハム2枚で2.2g程度の塩分が含まれています。また、加工肉を単独で食べることはあまりなく、ドレッシングなどでさらに味付けをするケースが多いので、さらに塩分の摂取量が増えると考えられます。

塩分の過剰摂取は高血圧などの症状を引き起こす可能性があるほか、骨粗しょう症にも影響するとも言われています。厚生労働省が推奨している1日の食塩摂取量は、男性の場合は8g未満、女性の場合は7g未満。加工肉ばかり食べていると塩分過多になってしまうため、注意が必要と言えるでしょう。

参考文献・参考サイト