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4 ペプチドワクチン療法

がんの特徴を細胞に覚えさせるカギ「ペプチドワクチン」

免疫細胞療法の「第四世代」は、単に免疫力をアップさせる段階から、がん細胞の特徴を細胞に覚えさせるというステージへ進化しました。そのひとつが「ペプチドワクチン療法」です。

がん細胞独自のペプチド(アミノ酸の塊)を提示することで、がん細胞の素性を樹状細胞や攻撃性の高いCTL(キラーT細胞)に教えることで、CTLの攻撃性を上げることを目的に行います。

がん細胞ペプチドに近いと考えられる人工ペプチドでワクチンを作成し、患者へ投与することで、樹状細胞に情報を与えCTLの攻撃能力を格段にアップさせます。

ペプチドワクチン療法の仕組み

ペプチドワクチン療法は、T細胞の性質を活かしたものです。T細胞の中でもキラーT細胞(CTL)は、宿主(患者)にとって異物となる細胞を識別して殺傷します。

全てのがん細胞は独自のサイン、つまりペプチド構造をもっていますが、そのがん細胞独自のペプチドを示すことで、樹状細胞の異物を認識する能力を高め、T細胞の攻撃力も育てようという考え方です。

キラーT細胞ががん細胞情報を受け取るT細胞受容体は、がん細胞独特の抗原ペプチドを受け取りそれを理解し、さらに戦いに向けて活性化します。この攻撃情報となるペプチドワクチンを患者に投与し、樹状細胞に学びのチャンスを与え、T細胞を攻撃的にすることで、がん細胞をより殺傷することができます。

ペプチドワクチンとは

がん細胞に特異なタンパク質は、ペプチド(9~10個のアミノ酸)という形でがん細胞の表面にあらわれます。MHC class I分子とともにペプチドがあらわれれば、それをがん細胞のサインと認識し、T細胞が活動を始めます。この働きを活発化させるために、がん細胞特有のペプチドを解析し、化学合成したものがペプチドワクチンです。

これには、患者の遺伝子を分析し、最適なペプチドを選んで用いる必要があり、遺伝子のタイプによってはペプチドワクチンが使用できないこともあります。白血球の血液型であるHLAを調べ、ワクチンの候補を選択する工程が必須です。

がんペプチドワクチン療法の流れ

がんペプチドワクチン療法は、患者の遺伝子情報や白血球の血液型(HLA)を調査することから始めます。またペプチドワクチンに対してあらわれる抗体の数値を計測し、数十種類のワクチンの中から効果が高そうなものを選び、投与を始めます。がんの種類や患者の状態など、幾重にもかかる条件から投与の回数や期間を決めますが、6回1クールの場合ならば1クールは毎週、2クール目は隔週、3クール目以降には2週間以上開けて、と投与の間隔をあけていくのが一般的です。

このがんペプチドワクチンの治療の間に、そのワクチンが正しい効果を出しているのかどうかを確認しながら行う必要があります。がんペプチドワクチンに反応し働いているCTLが増加しているかどうか、CTLによってがん細胞が死滅しているのかどうかを調査することも治療の一環です。

効果効能

がんペプチドワクチン療法は、臨床研究や治験が進んでおり、特にHLAの型がA2・A3・A11・A24・A26・A31・A33陽性の患者においてキラーT細胞(CTL)が増えることが確認されています。

免疫細胞の反応を増強し、がんの成長を止めることを目的に行われる、がんペプチドワクチン療法ですが、C型肝炎ウイルス感染症から肝臓がんになりやすい患者群に、C型肝炎ウイルス由来のペプチドワクチンを投与したところ、肝臓がんの発症を予防する効果が報告されています。また膀胱がんでがんが消失、脳腫瘍や子宮がんでほぼ消失という症例もあります。

今現在大学附属病院などで、がんペプチドワクチン療法で効果の見られるがんの種類やその特徴を特定しようとする臨床試験や研究が進んでいます。

ペプチドワクチン療法のメリット

ペプチドワクチン療法はこれまでの免疫療法と異なり、ワクチンの型の選択やそれに対して免疫細胞がどう働いているのかという追跡ができることから、効果が目に見える形で確認できることに最大の特徴があります。

例えば、「患者の体内でペプチドワクチンに反応したCTLの増加が確認できるか」「がん組織にCTLが入り込めているかどうか」「CTLによって死滅させられたがん細胞があるかどうか」をチェックできるのです。

この調査によって、少数ながらワクチンに反応したCTLが増殖・活性化した患者は、そうでない患者と比較して生存期間の延長が確認されるようになっています。すい臓がんや肺がん、脳腫瘍、前立腺がんなどにおいては治験も進み、承認の一歩手前の申請に手をかけようとしています。

これもまた、がんペプチドワクチン療法がその効果を追跡しやすい性質をもっており、開発が進んでいる証拠です。

ペプチドワクチン療法は新世代の免疫療法

旧世代の免疫治療である「丸山ワクチン」「蓮見ワクチン」「養子免疫細胞療法(自分のリンパ球などを取り出して増加させるもの)」は、免疫細胞を増やして戦おうというものです。効果がないとは言い切れませんが、闇雲に、無差別に免疫細胞を増やし、何らかの免疫力を高めようとするものです。これを「非特異的免疫療法」と呼びます。

一方で、がんペプチドワクチン療法は、がん細胞を選択的に攻撃する特定の免疫細胞を増やしたり強化したりするもので、「特異的免疫療法」と呼ばれています。排除すべきがん細胞の特徴を指し示すことで、樹状細胞から情報を得て、がん細胞を集中的に攻撃する能力を得たCTL(キラーT細胞)を増やします。そのため、対象となるがん細胞を狙って効率的に殺傷することができるのです。

がんペプチドワクチン療法を今すぐ受けられない理由

がんペプチドワクチン療法は、ある程度見込みがあり、なおかつ副作用の少ない治療法でありながら、誰にでもすぐ受けられる治療ではありません。

というのも、このがんペプチドワクチンは国に承認されていない「未承認薬」だからです。国民の安全を守る立場の国は、薬や治療法の安全性を確認できてから初めて承認します。いってみれば、がんペプチドワクチン療法は国のお墨付きを得ることができていない状態なのです。

一部の大学では10年近く「公的研究」として国からの費用を得ていましたが、いざ各種がんで様々なパターンの臨床試験を行おうとしても、大々的な試験費用を得ることができていない状況です。がんペプチドワクチン療法が、誰にでも手が届く治療法、すぐに受けられる治療法でないのは、このような背景があるからです。

がんペプチドワクチン療法と
あわせて知っておきたい治療
Future

がんペプチドワクチン療法は、特異的にがん細胞を攻撃するキラーT細胞を増加・活性化する治療法として注目されているものです。しかしながら、白血球の型によっては効果があらわれにくい患者もいるようです。

同様に新しいがん治療として注目されている治療法が、免疫チェックポイント阻害療法です。現在では、がん細胞が免疫細胞の働きにブレーキをかけて、免疫細胞によるがん細胞への攻撃を弱めていることが明らかになっています。このブレーキの部分を免疫チェックポイントといいます。このブレーキ部分を機能させないように邪魔するのが免疫チェックポイント阻害剤。これを使用することで免疫細胞の働きを活性化させ、再びがん細胞を攻撃できるようにする治療法が、免疫チェックポイント阻害療法です。