3 リンパ球免疫療法NK細胞療法

NK細胞を増殖・活性化させてがん細胞を逃さない

NK細胞の発見

NK細胞は、1970年代初めに発見されました。免疫を獲得し活動するT細胞などと比較したとき、初期的防御を行うNK細胞はとても原始的と受け取られたようです。さまざまな細胞の異常を探しながら、不審なものに攻撃を仕掛けることから、「生まれながらの殺し屋(ナチュラルキラー)」と名づけられNK細胞と呼ばれています。

しかしながら、NK細胞が不審なものをかぎわける力はとても高度です。異物(自分でないもの)を攻撃する性質を持ってはいても、母体に芽生えた胎児(自分でないもの)を攻撃することはありません。初期消火を担う役割でありながら、とても知的な振る舞いをするのです。

攻撃力が高く、「細胞の顔を観察する」知的さを持ち合わせるNK細胞は、今注目されている細胞のひとつです。

NK細胞療法とは

NK細胞療法とは、生来の殺し屋であるNK細胞の防御力を上げるため、NK細胞を活性化・増殖させることを目的としているものです。NK細胞は、がん細胞の証である物質「MHCクラスI」を隠しているがん細胞であっても見分けて殺傷することができます。

この能力は、樹状細胞などが発するがん細胞情報(サイトカイン)を待って活動を始める免疫細胞よりもスピーディで、効率が良いものといえます。

NK細胞療法は、トラスツズマブ、セツキシマブ、リツキシマブなどの抗がん剤と併用すると、がん細胞を更に効率よく叩くことができるとされており、将来を期待されている免疫細胞療法のひとつです。

治療の流れ

患者の体内からリンパ球を採取し、NK細胞を培養、増殖させてから再度患者の体内に戻すのがNK細胞療法の基本的な流れです。透析のように血液を体外の機械に流し、そこからリンパ球のみを採取します。採取したリンパ球をIL-2などで刺激することで、増殖のみならず活性化し、培養が完了すれば点滴で患者に投与します。患者の状態によっては、NK細胞を10億から100億個にまで増やすことが可能です。

通常、点滴投与は数週間おきに行われます。NK細胞は白血球の約10~20%を占めるとされる免疫細胞です。この数を爆発的に増やし、活性化することがNK細胞療法の大きなポイントです。

副作用について

自分自身の免疫細胞を利用するNK細胞療法には、基本的に副作用はありません。時に発熱や倦怠感を伴いますが、それは咳の出ない風邪の症状に似ています。一度に大量のNK細胞を投与したときはこの限りではなく、全身にトラブルを引き起こすことがありますが、この方法は日本では使われていません。

NK細胞治療のメリット

NK細胞療法は、他の「攻撃型細胞療法」とは異なり、どんながん細胞でも殺傷できることがメリットのひとつです。

また、正常な細胞には全く手を出さないことも知られています。たとえがん細胞のいたずらによって攻撃性を失ったNK細胞があったとしても、体外に取り出しIL-2などで刺激すれば、すぐに殺傷能力を取り戻します。

これまでの免疫療法は、がん細胞を抑制するにとどまりましたが、NK細胞療法ではじめて、がんを「克服する」ことを目指せるようになりました。

樹状細胞ワクチン療法やCTL療法では攻撃できないがん細胞を攻撃

NK細胞は、その力さえ衰えていなければ、攻撃できないがん細胞はないとされています。活性化したNK細胞であればなおさらです。

他に注目されている免疫細胞に「樹状細胞ワクチン療法」「CTL療法」がありますが、これらはがんであるという目印がなければがん細胞を攻撃することはありません。この点から見ても、NK細胞療法は大きな力を持っているといえます。

がんはときに、その目印を変えながら増殖していきます。また、目印そのものを隠していることもあります。樹状細胞ワクチン療法やCTL療法は「目印ありき」で攻撃をしかける治療法ですから、がん細胞のこのような挙動には弱いところがあります。

抗体医薬品との併用による相乗効果

NK細胞療法は、抗体医薬品と併せて採用することでその効果をさらにアップすることができます。

高ADCC活性を持つ抗体医薬は、抗体依存性細胞傷害活性という働きをもち、直接的ではないもののNK細胞とがん細胞を結合させることができます。このとき、NK細胞は活性化され、がん細胞を破砕する力を強めるのです。
NK細胞療法単独ではみられないこのがん細胞破壊へのプロセスは、抗体医薬品との併用から得られるものです。

NK細胞治療と相乗効果のある抗体医薬品(特徴、効果効能、副作用、注意点など)

-トラスツズマブ(商品名:ハーセプチン)
がん細胞の表面にあらわれるHER2というタンパク質に作用して、増殖を抑える薬です。転移性乳がんなどに用いられますが、HER2陽性のときのみです。頭痛や吐き気などの副作用が見られますが、脱毛はあまりありません。アントラサイクリン系抗がん剤を投与されているときは、心臓障害につながりやすいとされています。

-リツキシマブ(商品名:リツキサン)
がんの中でもB細胞性非ホジキンリンパ腫に効果的です。CHOP療法にこのリツキシマブを加える療法が広く取り入れられるようになっています。CD20陽性を示すB細胞性非ホジキンリンパ腫に適応。かゆみや発熱のようなアレルギー症状がみられることがあります。おおむねは抗ヒスタミン薬でおさえることが可能です。まれに心臓障害、腎不全、脳神経障害がでることがあり、免疫抑制剤と併用してしまうと感染症が起こりやすくなることが報告されています。

-セツキシマブ(商品名:アービタックス)
がん細胞が増殖するために重要なサインを受け取る「EGFR」という物質と結びつく性質を持っています。これによって増殖のサイン伝達は邪魔され、増殖ができなくなる仕組みです。切除が難しい進行性・再発の大腸がんに適応。大きな副作用は今のところ確認されていません。軽い発疹程度で、他の薬剤のように重篤な状態に陥ることはないとされています。

NK細胞療法とあわせて知っておきたい
免疫チェックポイント阻害薬について
Future

NK細胞療法は、どんながん細胞も見逃さないという有力な免疫細胞療法です。ですが、最近、がん細胞自身が免疫の働きにブレーキをかけ、免疫細胞のがん細胞への攻撃を防いでいることが判明してきました。そこで、ブレーキをかけるシステムをストップさせることで、免疫細胞の働きを損なうことなく、がん細胞を攻撃できるようにする新たな治療法が考えられるようになりました。

現在では、実際の治療において、免疫チェックポイントと呼ばれている、免疫力にブレーキをかけるシステムを阻害する薬(免疫チェックポイント阻害剤)が使われるようになっています。さらに進んだ免疫細胞療法への扉が開かれたのです。