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5 樹状細胞ワクチン療法

免疫細胞の司令塔を英才教育しがん細胞を狙い撃ち

樹状細胞ワクチン療法は、患者の体内から採取した樹状細胞に、がん細胞を覚えこませてワクチンを作成、患者に投与することです。樹状細胞はがん細胞の特徴を捉えた上で、各種免疫細胞に攻撃指令を出す司令塔であることから、免疫細胞がより効率よくがん細胞を攻撃することにつながります。

特にキラーT細胞への司令は重要で、樹状細胞からがん細胞情報を得た後、キラーT細胞は活性化され、より攻撃的になることが知られています。

樹状細胞の働き

樹状細胞は、その名の通り樹木の枝のように広がった形状が特徴です。樹状細胞そのものにがん細胞の殺傷能力はないものの、がん細胞の殺傷能力がことさら強力なキラーT細胞に指示を出すことで知られています。

樹状細胞がT細胞にがん細胞の目印となる抗原を伝えると、キラーT細胞に変化して攻撃力を増し、与えられた目印にそってがん細胞だけを攻撃するようになります。樹状細胞の情報分析力・情報伝達力があってこそキラーT細胞が働けるというもの。

発見者はその功績が認められて、2011年にノーベル生理学・医学賞を受賞するほどの世紀の発見でした。人体が免疫を獲得する仕組みの中で、この樹状細胞が大きな役割を果たしていることがわかり、がん治療もより一層進化することになりました。

樹状細胞ワクチン療法の流れ

樹状細胞ワクチン療法とは、人体免疫システムの司令官そのものである樹状細胞を英才教育するようなものです。患者の体内から樹状細胞とがん細胞を取り出し、細胞培養した後に患者の体内に戻します。ヒトの体内には、がん細胞に戦いを挑むだけの大量の樹状細胞はないため、培養することで数を増やし、同時にがん細胞の特徴を教え込むことで有能な司令官を量産するのです。

もしも患者の体内からがん細胞が取り出せない場合は、血液検査などからより近い形の人工的な目印(ペプチド)に反応するよう教育することもできますが、患者から取り出したがん細胞を用いるよりも、がん細胞への反応が若干劣るとされています。

実際の治療は、事前に樹状細胞ワクチン療法を受けることが可能なのかというチェックから始めます。白血球の一部を取り出す成分採血、取り出した成分を樹状細胞に育てて、患者のがん細胞(もしくはペプチド)を与え覚えさせる、できあがった樹状細胞ワクチンを数週間に1度注射し、治療効果のチェックも並行して行います。

効果効能

樹状細胞ワクチン療法は、レントゲンやCTなど画像に写る「固形がん」のみならず、全身に飛び火するように散ってしまったがん細胞にも効果があります。手術や放射線治療などの治療法は特定の箇所に集まったがん組織を切除したり破壊する治療であるのに対し、樹状細胞ワクチン療法は体内を駆け巡る免疫細胞を活性化することで、がん細胞が身体のどこにあっても追跡できます。

また、一度覚えこませたがん細胞のサインは樹状細胞が記憶していますので、再発の際にも防御を続けるという性質があります。スイスやドイツなど海外のがん治療研究の場において、がんが全身に転移し、手術などで対応しきれなくなった患者に樹状細胞ワクチン療法を実施したところ、約30%の割合でがんの縮小・進行の停止がみられたとされています。

樹状細胞ワクチン療法のメリット

樹状細胞ワクチン療法は、その特徴から以下のようなメリットがあります。

患者の身体に負担がかからない

患者自身の細胞から作成した樹状細胞ワクチンは、そもそも自分自身のものであることから、重い副作用の心配がほとんどありません。

オーダーメイドのがんワクチン

患者から取り出したがん細胞や、人工的な抗原(ペプチド)を使い樹状細胞にがん情報を提示。患者の状態やその他条件に合わせて治療できます。

三大治療法(手術・抗がん剤・放射線治療)と併用できる

三大治療法との組み合わせが容易にできることから、それぞれの良さを活かしながら併用可能。一部のがんとは相性が良いという報告もあります。

免疫細胞によるがん細胞への攻撃は、転移がんにも対応

樹状細胞にがん細胞情報を提示されたT細胞は、体中をかけめぐります。全身に飛び火、もしくは散らばってしまったがん細胞を追跡できます。

樹状細胞ワクチン療法の種類 Type and Feature

  • Type 1 自己がん細胞感作樹状細胞
    ワクチン療法

    体内から取り出した樹状細胞に、患者の体内から取り出したがん組織を利用し、がん情報を覚えさせます。がん細胞は目印(がん抗原)を変えながら転移したりするため、複数の目印が存在することがありますが、患者から取り出したがん組織を使えばその目印を取りこぼすことはありません。複数の目印に対応できるキラーT細胞を増量・強化することが可能です。

  • Type 2 ペプチド感作樹状細胞
    ワクチン療法

    人工的ながんの目印(抗原ペプチド)を用い、樹状細胞にがんの特徴を覚えこませるのがペプチド感作樹状細胞ワクチン療法です。なんらかの理由で患者自身のがん組織が手に入らないときにこの手法を用います。がんの種類や白血球の血液型(HLA)から、適合するであろう抗原ペプチドを候補にあげ、治療に用います。異なる分子配列を持つペプチドの混合物であるぺプチベータを使用すれば、白血球の血液型に左右されないペプチド感作樹状細胞ワクチンを作ることも可能とされています。

  • Type 3 腫瘍内局注樹状細胞ワクチン療法

    がん細胞の目印を採取するためのがん組織が、何らかの理由で入手できないことがあります。また、人工の抗原であるペプチドも用いることができないときは、「腫瘍内局注樹状細胞ワクチン療法」を用います。患者の血液から樹状細胞を取り出し、患者の体内(がん組織)に直接注入。すると樹状細胞はすでに死滅しているがん細胞から目印を取りこみ、T細胞に指令を出し始めます。

樹状細胞ワクチン療法と他の免疫療法との違い

旧来の免疫療法は、何らかの物質を与えることで免疫力に総動員をかけるようなものでした。それに対し、樹状細胞ワクチン療法は、患者自身の細胞情報を免疫システムの「司令塔」に伝えることによってスピーディで無駄のない攻撃が可能になりました。がん細胞攻撃の精鋭部隊であるキラーT細胞にがん細胞を狙い撃ちさせることができるようになったからです。特定の細胞への攻撃を行う樹状細胞ワクチン療法は「特異的免疫療法」で、これまでの総動員形は「非特異的免疫療法」と呼ばれています。

これだけの効果を見込める樹状細胞ワクチン療法ですが、その効果を大きく左右するのが「Th1反応」です。主にがん細胞を殺傷しに行くキラーT細胞を活性化させる反応のことで、この反応はアクセルとも呼ばれています。

樹状細胞ワクチン療法と
あわせて知っておきたい治療
Future

樹状細胞ワクチン療法は、樹状細胞にがん情報を教え込むことにより、特異的にがん細胞を攻撃するキラーT細胞を増強し強化するものです。しかしながら、がん細胞自身が、免疫細胞の動きを封じる行動をとっていることもあります。

そこで今、がん治療として脚光を浴びようとしている治療法が「免疫チェックポイント阻害剤」です。がん細胞の表面にあらわれる物質と免疫細胞とが結びつき、がん細胞を攻撃しないように働きかけるブレーキを、免疫チェックポイント阻害剤で機能させなくすることで免疫細胞の働きを取り戻すというものです。

この免疫チェックポイント阻害剤を使用した治療法が、免疫治療において大きな役割を担うようになりつつあります。